医学部では、医師になるための勉強を6年間かけて進めます。
ただ、実際にどんな授業や実習があるのかは知らないという方もいるでしょう。
そこで今回の記事では、医学部に入学したらどのような勉強をするのか、実習やスケジュールについて詳しく解説します。
目次
医学部の勉強内容の基本
はじめに、医学部ではどのような勉強をしていくのかを大まかに解説します。
医学部医学科は6年制です。
1〜2年で基礎、3〜4年で臨床の講義、5〜6年で病院実習というのがおおまかな流れです。
ここでは、他の学部と医学部ではどのような違いがあるのかを解説します。
単科大学と総合大学の違い
医学部がある大学には、医学部のみの単科大学と、複数の学部を持つ総合大学があります。
単科大学は文字通り医学部しかない大学で、総合大学は医学部以外にも学部がある大学です。
医学部に入学した学生は医師になるため医学の専門科目を学びますが、併せて「一般教養」として人文科学・社会科学・自然科学なども履修します。
総合大学では一般教養の種類が豊富で、他学部の学生と一緒に授業を受ける機会も多くなります。
一方、単科大学では一般教養科目の種類は総合大学ほど多くありませんが、その反面基礎医学など医学部専門の授業を1年生から取り入れている場合もあります。
早くから専門的な勉強をしたい学生には、単科大学の方が向いている傾向があるでしょう。
臨床実習
臨床実習とは、講義で臨床医学（病気の成り立ちや治療法など）を学んだ後に、実際に大学病院などに出向いて患者さんと接しながら先輩医師の指導を受ける実習科目です。
大学病院で診察を受ける場合、ときに見学の学生が同席することがありますが、それは臨床実習の一環です。
医学部では多くの大学で4年生以降に臨床実習が始まります。
参加には全国統一の共用試験（CBTとOSCE）に合格する必要があり、これに合格して初めて病院実習に進む資格を得られます。
CBT（Computer Based Testing）はコンピューター使用の筆記試験で、OSCE（Objective Structured Clinical Examination）は臨床技能を評価する実技試験です。
これら共用試験に合格しないと臨床実習を受けることはできません。
臨床医学の内容をしっかり理解していないと共用試験を突破できず、実習にも参加できないことになります。
臨床実習を受けられなければ医師国家試験の受験資格も得られませんから、医学生は大学入学後も勉強漬けの毎日を送ることになります。
医師国家試験に向けての勉強
医師になるには医学部の全課程（6年）を修了して医師国家試験に合格しなければなりません。
試験の合格率は毎年90％前後と高めですが、これはそもそも6年間医学を学んだ学生しか受験資格がないためです。
例えば、2025年に実施された第119回医師国家試験では合格率92.3％（新卒95.0％、既卒59.0％）でした。
（出典：厚生労働省）
医師国家試験対策の勉強は通常6年生の後期から本格化しますが、その前に各大学で卒業試験が行われます。
医学部生にとっては進級や卒業、国家試験と常に試験勉強の連続になることを覚悟しなければなりません。
医学部生のスケジュールって？
医学部生のスケジュールは、学年が上がるにつれて専門的な授業が増えていくことも特徴です。
医学部の6年間で履修する勉強内容や実習は学年によって異なり、大まかに分けると以下のようになります。
- 1～2年生：基礎科目中心
- 3～4年生：臨床医学の専門科目中心
- 5～6年生：実習が主体
ただし、いつ何を学ぶかは大学ごとのカリキュラムによって異なります。
ここからは学年ごとの典型的な勉強内容・スケジュールの一例を紹介します。
医学部1年生の勉強内容
医学部1年生では、医師としての基礎を築くための基礎科目の講義が中心です。
例えば、解剖学や生理学といった医学の基礎科目に加え、共通教育科目として生物学・物理学・数学・英語など高校からの延長となる科目も履修します。
大学によってはこの時期から早期臨床体験を取り入れていることもあり、医師の後について現場を見学するシャドーイングや、患者さんとのコミュニケーション練習、外来見学などを通じて、医学生としての心構えを学ぶ機会が設けられることもあります。
まだ医学部1年生の間は一般教養の授業も多く、総合大学の場合は他学部の学生と合同でキャンパスライフを送るケースもあるでしょう。
医学部2年生の勉強内容
医学部2年生になると、徐々に専門的な医学教育へと比重が移っていきます。
1年生同様に座学が中心ですが、人体の正常な構造や機能の理解に加えて、病気の成り立ち（病態）に関する基礎知識の習得が本格化します。
これは翌年から始まる臨床医学の準備段階にあたり、薬理学、病理学、免疫学、微生物学など病気に関連する基礎医学科目を学ぶ時期です。
医学部2年生からは学習内容・範囲が格段に広く難しくなるため、この段階で単位を落として留年してしまう学生も出てきます。
低学年のうちから計画的に学習を進め、十分な勉強時間を確保しておくことが重要です。
医学部3年生の勉強内容
医学部3年生になると、基礎医学の履修を一通り終え、いよいよ臨床医学（各診療科ごとの疾病とその診療について）の講義が始まります。
臨床医学では、患者さんの症状や検査所見をどのように整理して診断に結びつけるかを学習します。
各専門領域ごとに集中講義が行われることもあり、スケジュール的にも徐々に忙しくなっていきます。
大学の講義は附属病院の医師が担当することが多く、現場の生の声を聞けるため、実際に医師として働くイメージも湧きやすくなるでしょう。
3年生では臨床医学の講義と並行して、後述の病院実習に備えた学内での実習科目が課される大学もあります。
医学部4年生の勉強内容
医学部4年生は、本格的な臨床実習に入る前の最終準備段階です。
4年生前半は学内で模擬患者やシミュレーターを使った実習トレーニングなどを行い、診療の基本手技やチーム医療を経験します。
大学によっては4年生の後期から臨床実習（病院実習）を開始するところもあります。
4年生の大きな山場は、全国共通の共用試験に合格することです。具体的には、4年生時にCBT（Computer Based Testing：コンピュータによる筆記試験）とOSCE（Objective Structured Clinical Examination：模擬患者を用いた実技試験）が実施され、医学知識の習熟度や診療技能・態度が試されます。
この共用試験に両方合格して初めて5年生以降の病院実習に進めるため、4年生の勉強は医学部生活前半の総仕上げと言えるでしょう。
また、医学部4年生頃から卒業後の初期研修（医師免許取得後の2年間の研修）について情報収集を始めることも大切です。
多くの学生は5～6年生で研修先となる病院探しを本格化させますが、希望する研修先がある場合は4年生のうちから見据えて行動しておくと安心です。
実習が始まると時間的余裕がなくなるため、この時期にキャリアを考え始めておくと良いでしょう。
医学部5年生の勉強内容
医学部5年生になると、いよいよ臨床実習が本格的に始まります。
高学年の病院実習は通称「ポリクリ」とも呼ばれ、5年生の大半は各診療科を順番に回るローテーション実習に費やされます。
一般的に大学の附属病院や協力病院にて、1人または数人のグループ単位で各科の診療チームに加わり、指導医の下で診察の補助やカンファレンス参加などを経験します。
この実習を通じて医療の知識だけでなく、患者さんとの接し方や看護師・薬剤師などとの連携などコミュニケーション能力も身につけていきます。
実習中は忙しい日々が続きますが、翌年の医師国家試験に向けた勉強も少しずつ開始しておきたい時期です。
実習後の疲れから勉強時間を確保するのは難しいかもしれませんが、空き時間を使って問題演習を始めるなど計画的に準備すると良いでしょう。
医学部6年生の勉強内容
医学部6年生では、引き続き臨床実習に取り組みながら、いよいよ医師国家試験対策の勉強が本格化します。
各大学で定められた卒業試験に合格し卒業要件を満たすことがまず必要ですが、その合格後すぐに2月の国家試験本番が控えているため、6年生は勉強漬けの日々となります。
6年生の夏頃からは「マッチング」と呼ばれる初期研修先（臨床研修病院）を決定する全国的な選考システムが実施されます。
マッチングとは、医学生側の希望と病院側の採用希望をお互い登録し合致すれば内定する仕組みで、言わば医学生の就職活動にあたります。
希望の病院に研修医として採用されるため、6年生は勉強と並行して各病院の情報収集や見学なども行う必要があります。
以上のように、6年生は実習・卒業試験・マッチング・国家試験と非常に忙しいスケジュールになりますが、これらを乗り越えれば晴れて卒業・医師国家試験合格となり、医師免許を取得して研修医としてのキャリアが始まります。
医学部の実習は何をする？
医学部では講義以外にもさまざまな実習科目があります。
ここでは、医学部生が経験する主な実習の種類と内容について解説します。
教養科目の実習
1～2年生で履修する教養科目では、授業によっては実習が課されることもあります。
例えば理科系科目での実験実習や、フィールドワークを伴う課題に取り組んでレポートを書く形式の実習などです。
実習の有無や内容は大学によって異なり、全く実習がなく講義だけで完結する科目もあれば、頻繁に実習レポートが課される科目もあります。
いずれにせよ教養科目は多くが選択制で履修できるため、興味や必要に応じてシラバスを確認し、計画的に選ぶと良いでしょう。
BLS講習
BLS講習とは、心肺停止または呼吸停止に対する一次救命処置の方法を学ぶ講習です。
BLS（Basic Life Support）とは、特別な器具を用いずにその場で誰にでも行える心肺蘇生などの救命処置のことで、一般市民でも実施可能な応急措置を指します。
（出典：日本蘇生協議会）
一方で、救急救命士や医師が器具や薬剤を用いて行う高度な救命処置はALS（Advanced Life Support）と呼ばれ区別されています。
医学部では入学して比較的早い時期にBLS講習が行われることが多く、これが医学へのファーストコンタクトになる学生も多いでしょう。
講習では胸骨圧迫やAEDの使用法といった心肺蘇生の実技を学びます。
今後医療に携わる者として、緊急時の対応の基本を身につける大切な機会です。
地域医療実習
地域医療実習とは、大学病院以外の医療機関で行う実習です。
大学の附属病院ではなく、地域の基幹病院や専門病院に出向いて実習を行います。
地域医療実習は低学年のうちに実施されることが多く（1～3年生頃）、行えない段階ですが、カルテの閲覧や診察見学、看護師の指導の下での食事介助などを経験する実習です。
また、病院によっては当直などを経験させてもらえることもあります。
こうした実習を通じて、医学生たちは「病院で働くとはどういうことか」を早い段階で体験し、医療従事者としての自覚を深めるきっかけになります。
臨床医学の実習
医学部の専門科目である臨床医学の講義に付随して行われる実習も多彩です。
各科目の内容理解を深めるため、実際にデータを測定・分析する実験実習や、症例検討形式のグループ学習、研究室での研修など様々なスタイルがあります。
例えば、生理学の授業であれば自ら心電図を計測してみる、生化学であれば酵素反応の実験を行う、といった具体的な実習が課されることがあります。
座学だけでは身につきにくい実践的な知識や技術を、実習を通じて修得していくイメージです。
実習内容は大学ごとに異なるため、詳しくは各大学のシラバスやパンフレットで確認することが大切です。
病院実習
病院実習とは、医学部生が実際に病院の全診療科を回って行う臨床実習のことです。
医学部の授業というとまずこの病院実習（臨床実習）を思い浮かべる人もいるでしょう。
多くの大学では5年生から病院実習が開始されますが、早いところでは4年生の終わり頃から始める場合もあります。
大学附属病院を中心に、関連病院も含めて内科・外科から始まり小児科、産婦人科、精神科など全ての科を順番にローテーションしていきます。
地域医療実習と統合して行う大学もあります。
病院実習が医学部教育のハイライトとも言えますが、病院実習を開始するには所定の試験（CBT・OSCE）に合格していることが条件です。
病院実習を終えないと卒業必要単位が揃わない仕組みのため、医学生はこの時期までにしっかり学力をつけておく必要があります。
医学部の勉強内容はついていけるものなのか？
入学してからの医学部の勉強内容についていけるものなのかを確認するために、医学部の勉強の難易度や学生生活について解説します。
ハードなスケジュールと膨大な暗記
医師になるためには膨大な知識が必要です。
医学の進歩により、医師として覚えておかなければならない知識量は年々増え続けています。
そのため、医学部では1限目から6限目までびっしり授業が詰まっている日も珍しくありません。
テストも難しく、再試験や救済措置が一切ない場合もあります。
定期試験に不合格だったら問答無用で留年という厳しい大学もあるほどです。
医学部では各学年で一定の成績に達していない学生は進級させない方針が取られることが多いですが、これは最終学年での国家試験を確実に突破させるための大学側の戦略でもあります。
勉強不足の学生を無理に進級させても医師国家試験に合格できないケースが多いため、大学としては一定のレベルに達していない学生は容赦なく留年させるのです。
結果として医学部は他の学部よりも進級が厳しく、途中で勉強についていけず留年に至ってしまう学生も少なからずいます。
部活などの課外活動も可能
スケジュールがハードとはいえ、医学生が勉強ばかりしているかといえば必ずしもそうではありません。
部活動やアルバイトに参加することも可能です。
ただし勉強との両立の必要上、毎日のように部活に打ち込む学生はあまり多くなく、ライトな参加スタイルの学生がほとんどです。
また近年は学費や生活費を賄うため、授業が終わった夕方以降にアルバイトをする学生も増えています。
医学部は課題や試験勉強で忙しいですが、うまく時間管理をすれば課外活動でリフレッシュする余裕を作ることも可能です。
人の命にかかわる職業だということを忘れずに
医学部の勉強が難しく進級の判定も厳しいのは、将来医師という人の命を預かる職業に就くための責任が伴うからです。
どの職業でもミスは許されませんが、医師の仕事では特に一つの判断ミスや知識不足が人の生死に直結する可能性があります。
そのため、医学部はどこの大学でも進級判定が厳しめで、他の学部より留年する学生の数が多い傾向にあります。
医学生にとって、「入ったら終わりではなく、入学してからが本番」です。
入試を突破したからといって決して安心せず、医師になるその日まで勉強を続ける覚悟が求められます。
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まとめ
この記事では、医学部入学後の6年間に学ぶ勉強内容と実習スケジュールについて解説しました。
1〜6年生それぞれの典型的なカリキュラムや主な実習を紹介し、学年が上がるにつれて専門性が増し多忙になる医学部生の実態がわかりました。
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