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「社会契約説」とは?

「社会契約説」とは?

 皆さん、こんにちは。本日は円町校の江島がお送りさせていただきます。

 本日は「英作文でも使える」シリーズは一旦お休みして、政治経済分野で入試必出の “社会契約説” について解説したいと思います。民主政治の根底にある思想としてよく耳にしますが、意外に整理しにくい部分ですので、「イマイチ理解できてないな」と思っている人はぜひ参考にしてください。

社会契約説とは?

 まず、社会契約説とは「自然権をよりよく守るために、人民相互の同意に基づき国家が形成されたとする説」で、16世紀~18世紀にかけてヨーロッパ諸国の絶対王政を支えていた王権神授説を否定し、市民革命の思想的原動力となったものです。いきなりよくわからない用語がズバズバ並んでいますね。一つずつ整理してきます。

 前提として自然権についてはお話ししておくのがよさそうですね。「自然権」とは自然法で認められた権利のことで、「人間が生まれながらにして持っている権利」と思っておいて問題ありません。自然法とは、人間として守らなければならない「社会常識」のことで、決して法律ではないのです。「人のものを盗んではいけない」とか、「人を殺めてはいけない」とか、当たり前のことが自然法なのです。自然法に基づいて自然権がきっちり守られる社会が実現すれば、すごく理想的な社会が出来上がる…。ところが自然法だけしか存在しない社会は、強制力がないため、皆が好き勝手に行動してしまい、自然権が十分に守られる状態にはならない。みんなが共生する社会だから、自然権をより良く守れるように、みんなが納得できる形で「強制力をもった集団」を作っていきたい…そんな考え方が社会契約説です。こういった理由で国家が形成されたことにしておきましょうというフィクションなのです。

 16世紀から18世紀の間は、上記のように「王様の決めたことは絶対」という風習がありました。「王は神から民を支配する権利が与えられているのだ」なんて言われたら、民は不満がたまっていきます。それが爆発したのが市民革命。その行動原理として社会契約説が取り上げられたのです。

社会契約説を唱えた代表的な3人

  • ホッブズ

 清教徒革命期に活躍したイギリスの思想家で、自然状態のままでは、皆がみな欲望を叶えようと行動し、果てには「万人の万人に対する闘争」という無秩序な状態になってしまうとしました。そうなってしまうくらいならば、強大な国家をつくり、自然権を絶対的主権者に全面譲渡するのが理想だとしました。結果的に絶対王政を擁護することになってしまい、非難を受けましたが、王権神授説(権利は神→国王に与えられた)とは違い、各個人には自然権が与えられており、「それを主権者に渡しているに過ぎない」という視点から初めて社会契約説を唱え、近代民主政治の先駆けとなった人物として、試験でもよく問われます。

  • ロック

 名誉革命期に活躍したイギリスの思想家です。ホッブズほど「自然状態=悪いもの」だとはしていません。しかし、自然状態のままでは自然権(特に財産の所有権など)の保全が確実ではないから、そのために必要な権力を国家・政府へ信託することを提唱しました。「全部あげる」のではなく、「信じて託してるんだよ」という感じ。もし託された権利を濫用するなど、その信頼に背くようなことがあれば、人民は、政府に対して抵抗権(革命権)を行使して、政府の在り方を変更できるのだとしました。ロックはそう主張して、名誉革命を理論的に擁護、間接民主制を理想化し、後に起こるアメリカ独立やフランス革命に多大な影響を与えました。名前の割に、保守的な人だなといつも思います。

  • ルソー

 最後はフランスの思想家のルソーです。彼のキャッチフレーズは「自然に還れ」。ゆえに、自然状態を理想化しています。自然状態の下では人々は悪徳を知らず自由に、平等に生活していた。しかし文明が発達すると貧富の差や利害対立が生まれ、世の中が混沌としてしまった。そこでルソーは、失われた自由・平等を回復するため、自由が完全に保障される共同体の建設を唱え、その成員は自然権をそこに譲渡し一体化すべきと説きました。この共同体には、全人民の総意であり、共通の利益である一般意思〔意志〕というものが存在し、これを達成するために人民主権や直接民主制を唱え、フランス革命の理論的支柱となりました。一般意思とは「公共の福祉」的なものだと考えてください。個人の利益のみを求める特殊意志とは対の考え方です。「一般意思は代表されない」という名言も残しており、代表民主制(間接民主制)とそれを提唱しているロックを批判しています。「英国人が自由なのは選挙のときだけで、選挙で議員が選ばれると、市民は奴隷の身になったも同然だ」と著書『社会契約論』の中で、イギリスの体制を否定しています。確かに理想といえばそうなんだけど、国政に関する直接民主制は、1億人以上も抱える日本では絶対になしえないでしょうね。

最後に

 三者とも、民主政治の大切さを思う気持ちは同じですが、スタンスが全然違いますね。全員が全員とも試験ではよく見かけるので、しっかり理解しておいてくださいね。

 本日はここまでにしておきます。以上です。お疲れさまでした。

  

投稿者:江島 祥人

  • 役職
    英語科主任/英語科講師
  • 講師歴・勤務歴
    7年
  • 出身大学
    大阪市立大学経済学部
  • 特技・資格
    特に目立ったものはないです
  • 趣味
    音楽鑑賞
  • 出身地
    京都府
  • お勧めの本
    武器としての決断思考

受験生への一言
初めて出会う事柄に対して、出来る限り「考えて」みてください。自分の価値観と照らし合わせてみて、ああだこうだと「腑に落ちる」まで考えてはじめてそれが知識となり、皆さんの力となります。