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2023年度近畿大学医学部の物理過去問対策・分析

2023年度近畿大学医学部の物理過去問対策・分析

京都医塾物理科です。
このページでは「近畿大学医学部の物理」についての過去問分析コメントを紹介します。

・“医学部受験に興味がある”という方
・“近畿大学医学部”の受験を考えている方
・“近畿大学医学部の物理がどのような問題か知りたい”という方

オススメの記事となりますので、興味のある方はご一読ください。

概要

【形式・制限時間・配点】2023年度 

形式:記述式

時間:2科目120分

大問数:3題

配点:100点(1次試験全体の配点は400点)

出題の傾向と特徴

 2016年度以降の8年分について、分野別の傾向をまとめます。

【力学】

 毎年、1題は出題されています。出題テーマは

・「ひもでつながった2つの小物体の斜面と水平面に沿った運動(2023)」

・「なめらかに接続された円筒面と斜面に沿った小物体の運動(2022)」

・「摩擦のある水平面上でのばね振り子(2021)」

・「摩擦のある水平面上でのばね振り子(2020)」

・「放物線の形状をした針金に通した小球の単振動(2019)」

・「斜方投射させた小球が壁を越える条件(2018)」

・「ばねを取り付けた台車と小球の衝突およびそれによるばね振り子の単振動( (2017)」

・「斜面上での2物体の衝突およびそれによるばね振り子の単振動(2016)」

です。

 直近8か年のうち5回も単振動が出題されており、確実に頻出と言える単元です。特に、2020年度と2021年度は、いずれも摩擦のある水平面での単振動を分析する問題でした。

 摩擦がある水平面においては、物体の移動方向が切り替わると、動摩擦力の向きも切り替わるので、それに応じて振動中心の位置が変化します。重要な着眼点なので、必ず押さえておきましょう。

【電磁気】

 毎年、1題は出題されています。出題テーマは

・「コンデンサー回路における無限回のつなぎ替え(2023)」

・「コンデンサーを含む直流回路(2022)」

・「ダイオードを含む直流回路(2021)」

・「RLC交流回路(2020)」

・「交流電圧の発生,RL交流回路(2019)」

・「電磁場中の荷電粒子の運動(2018)」

・「磁場中を動く2本の導体棒(2017)」

・「測定装置が回路に及ぼす影響(2016)」

です。

 これらから分かるように、電磁気は力学に比べて、あまり単元の偏りはありません。2020年のRLC交流回路では、それぞれにおける電流と電圧の位相差をベクトル図で表す問題が出題されました。

 抵抗では電流と電圧の位相差がありませんが、コイルでは電流に比べて電圧の位相が \(\frac{\pi}{2}\) 遅れ、コンデンサーでは電流に比べて電圧の位相が \(\frac{\pi}{2}\) 進みます。交流回路を分析する上では重要な知識となるので、教科書などで確認しておきましょう。

【波動】

 大問3題構成のうち、2題を力学と電磁気が占めているため、残り1題は波動、熱力学、原子物理のいずれかとなっています。波動は、直近8か年では2016年度のみ出題されています。出題テーマは

・「ドップラー効果による血流速度の測定(2016)」

です。

 このテーマは、物理を医学へ応用したものですが、他大学でも類題がよく見られます(2018関西医科大学、2018東京慈恵会医科大学など)。一見難しそうな題材ですが、赤血球を反射板に見立ててしまえば、結局のところ反射を含むドップラー効果を考えているに過ぎません。特別な知識は必要ないので、問題に沿って解法の流れを確認しておきましょう。

【熱力学】

 直近8か年では3回出題されています。出題テーマは

・「熱サイクル(定積。定圧・等温変化)(2022)」

・「カルノーサイクル(断熱・等温変化からなる熱サイクル)(2019)」

・「スターリングサイクル(定積・等温変化からなる熱サイクル)(2018)」

です。

 2018年度と2019年度の問題は、どちらも熱効率が理論的に最大となる有名な熱サイクルをテーマとしたものであり、他大学でも類題がよく見られます(2021兵庫医科大学、2019愛知医科大学など)。そのため、一度は触れておきたい題材です。

 なお、これらの理論熱効率 \(e\) は

              \(e=1-\frac{T_L}{T_H}\) (\(e\):熱効率,\(T_L\):低温熱源の温度,\(T_H\):高温熱源の温度)

となることが知られています。知識にしておくとよいでしょう。

【原子物理】

 直近8か年では4回出題されています。出題テーマは

・「放射性崩壊(2023)」

・「光電効果(2021)」

・「ボーアモデル,コンプトン効果(2020)」

・「ボーアモデル(2017)」

です。

 2017年度と2020年度でボーアモデルが2回出題されていますが、ほとんどは基本的な知識で解けるものでした。ボーアモデルはどのレベルの問題であれ、「(i)円運動の運動方程式、(ii)量子条件、(iii)振動数条件」の3式を連立して解いていくことに変わりありません。見かけ以上にワンパターンなので、類題演習を通して、最初から最後までの解答の流れをつかんでおきましょう。

【制限時間に対する問題量】

 2023年度は2科目120分で大問3題を解答する必要がありました。1科目60分と考えると、大問1題あたりの時間は20分となります。1題の量が多すぎるということはないため、他の近畿圏の私立医大に比べ、思考に使える時間は多く取れます。

2023年度(最新の過去問)の分析

 さらに踏み込んで、最新の入試問題を具体的に分析したいと思います。

※以下、過去問をお手元にご覧になるのが理想的ですが、過去問がなくても問題なくお読み頂けます。

【第1問】 

 題材は、ひもでつながった2つの小物体の斜面と水平面に沿った運動です。パイプ内を通しているという設定は見慣れないものですが、結局は2つの小物体を滑車を通したひもでつなぎ、パイプ内の斜面や水平面を運動させているに過ぎません。そのため、各小物体について、運動方程式から加速度を導出し、等加速度運動として分析を進めていけばよいでしょう(摩擦がないという点も平易です)。ただし、一部の設問については、仕事とエネルギーの関係(2物体を合計で考える場合は、力学的エネルギー保存則)を考えることで、計算を簡略化できます。

 以上のように、2022年度と同様、解答の方針立ては平易でした。さらには、計算量も減少しています。そのため、基本に忠実に分析を進めていけば、完答も十分に狙えます。

≪2023年度の目標値≫

物理を得点源にしたい受験生…9~10割

他教科を得点源にしたい受験生…7~8割

【第2問】 

 コンデンサー回路における無限回のつなぎ替えを考察する問題です。本問は、他の大学で類題も多く見られる頻出題材です(2022帝京大学、2021関西医科大学など)。

 空欄1~4は基本的であるため、初見でも解けなければなりません。ただし、電気容量が \(C_1\)、\(C_2\) と一般的な文字式で与えられているため、現実的な試験時間で解くためには計算の工夫が重要となってきます。そこで、2回目から3回目の充電で増加した電気量が問われている空欄5は、これ自体を変数とした方程式を立式し、効率的に計算を進めるとよいでしょう。

 空欄6と7は、充電 \(n\) 回目を考えるために2項間漸化式を立てますが、ここが難所です。落ち着いてそれぞれの切り替え前後の状況を図に起こし、立式していきましょう。ただし、仮に空欄6と7が解けなかったとしても、空欄8は解答できます。というのも、無限回のつなぎ替えにより電荷が移動しなくなった状況では、新たにつなぎ変えても電荷が移動しません(コンデンサーの電荷はもとのままです)。したがって、このことを逆手に取り、コンデンサーが蓄えるべき電荷を決定していけばよいでしょう。

≪2023年度の目標値≫

物理を得点源にしたい受験生…7~8割

他教科を得点源にしたい受験生…5~6割

【第3問】

 放射性崩壊をテーマとした様々な内容を考察する問題です。前半の(1)は放射性同位体である炭素14を用いた年代測定法に関する問題であり、典型かつ基本的です。そのため、完答が望まれます。もし、本問のような問題に苦戦するという人は、放射性崩壊そのものについて、今一度基本からしっかりと復習しておきましょう。

 後半の(2)は放射能の強さを計算する問題です。放射能の強さについては、「1秒間に1個の原子核が崩壊するときの放射能の強さは1Bqである」とその定義が書かれています(ただし、これは教科書にも記載されていることなので、本来は覚えておくべき内容です)。しかし、具体的に放射能の強さを算出するためには、教科書内容を超える知識が必要となります。そこで、本問では導出に使用すべき式が予め与えられています。そのため、問題文中の誘導に従いながら、これを用いて計算をすればよいでしょう。最初の空欄7が出せたかどうかが勝負です。出せたならば、完答も狙えます。題意が理解できないからと言って諦めず、きちんと問題文から情報を読み取れたかどうかが、大きく点差を分けたものと思われます。

≪2023年度の目標値≫

物理を得点源にしたい受験生…8~10割

他教科を得点源にしたい受験生…6~7割

【総評】

 非常に煩雑な計算を求められた2021年度に比べ、2022年度、2023年度と計算量は大きく減少し、典型的かつ標準的な問題が並びました。発想力や深い思考力が必要な設問は少ないので、物理の得手不得手に関わらず、設問の多くを取りこぼさず解き進める意識が不可欠となります。また、問題文に考察のヒントが書かれていることも多いため、丁寧に情報を読み取ることが重要になってきます。

 例年、大問の中で少しずつ現象を展開させ、それを設問で誘導しながら理解を試していく構成を取ることが多い大学です。また、グラフの描図が頻出であり、2023年度も第1問で4問出題されています。十分に訓練を積んでから、試験に臨みましょう。

まとめ

というわけで、今回は近畿大学医学部の物理についてまとめてみました。皆さんの参考になれば幸いです!

京都医塾ではご相談・体験授業を随時募集しています。下記リンクからお気軽にお問い合わせください。

投稿者:佐藤 寛之

  • 役職
    物理科統括/物理科講師
  • 講師歴・勤務歴
    14年
  • 出身大学
    京都大学理学部
  • 特技・資格
    作業に没頭できること
  • 趣味
    散歩
  • 出身地
    岡山県
  • お勧めの本
    高橋昌一郎「理性の限界」

受験生への一言
まず、目の前の問題が「解けない」という事実にこだわりましょう。解説を読んで理解した気になってはいけません。解けていない原因はほぼ間違いなく、基礎が理解できていないからです。自分でよく考え、それを先生に質問し、友達にも説明してみましょう。やがて、その一つ一つが大きな力へと結実していきます。