京都医塾物理科です。

このページでは「藤田医科大学の物理」についての過去問分析コメントを紹介します。

・“医学部受験に興味がある”という方
・“藤田医科大学医学部”の受験を考えている方
・“藤田医科大学医学部の物理がどのような問題か知りたい”という方

オススメの記事となりますので、興味のある方はご一読ください。

概要

【形式・制限時間・配点】2022年度

形式：記述式

時間：2科目120分

大問数：4題

配点：100点（筆記試験全体の配点は600点）

出題の傾向と特徴

2016年度以降の7年分について、分野別の傾向をまとめます。

【力学】

大問では1題のみ出題する多くの他大学と異なり、毎年、2題程度が出題されています。出題テーマは

・「階段状の面における多数の小球の連続衝突(2022)」

・「円筒面に沿った小球と物体の運動(2021)」

・「摩擦のある斜面に沿った物体の運動(2021)」

・「ひもでつり下げられた剛体棒のつりあい (2020)」

・「2球の斜衝突 (2020)」

・「摩擦のある水平面に置かれた剛体棒のつりあい(2019)」

・「ばねにつながれた2球の繰り返し衝突(2019)」

・「粗い床に置かれた台上における2つのおもりの運動(2018)」

・「摩擦のある床に置かれた台とその上における物体の運動(2017)」

・「多数のおもりをつけた棒の円運動(2017)」

・「紐でつるしたおもりと小球の運動(2016)」

・「滑らかな床に置かれた台上における2つの物体の運動(2016)」

です。

単振動と万有引力に関する出題がありません（ただし、2017年度の電磁気における導体棒の運動は、近似的に単振動となっています）。力を及ぼしあう複数物体について運動を考察する問題が、毎年のように数多く出題されています。公式一辺倒で端的に答えが求まるような設問は少なく、各物体に働く力を丁寧に描図し、運動方程式、力積と運動量の関係（運動量保存則）、仕事とエネルギーの関係（力学的エネルギー保存則）について、地道に立式しながら考察を進めていくという構成を取る問題がほとんどになります。

【電磁気】

毎年、1題は出題されています。出題テーマは

・「ダイオードとコンデンサーを含む直流回路(2022)」

・「一様電磁場中で摩擦のある水平面に沿った小球の運動(2022)」

・「コンデンサーを含む直流回路(2021)」

・「一様電場および磁場中における荷電粒子の運動(2020)」

・「電気抵抗による温度の測定(2019)」

・「一様磁場中における荷電粒子の運動(2018)」

・「コンデンサーを含む直流回路(2018)」

・「一様磁場中における導体棒の運動(2017)」

・「一様な抵抗における消費電力、交流電圧の発生(2016)」

・「コイルを含む直流回路(2016)」

です。

これらから分かるように、一様な電磁場中における物体の運動（2017, 2018, 2020, 2022)と、直流回路に関する問題（2016, 2018, 2019, 2021）が多く出題されています。特に、他大学と比較して、一様な電磁場中における物体の運動の出題頻度は高いと言えます。一様な電磁場中において、一様電場の場合は等加速度運動、一様磁場の場合は等速円運動になることは、必ず押さえておきましょう。

【波動】

毎年、力学から2題と電磁気1題の3題ずつ出題され、残りの1題は波動、熱力学、または原子物理のいずれかから選ばれています。

波動は、2016年度以降の7年間で、2題出題されています。出題テーマは

・「複数の媒質における光の屈折(2018)」

・「円運動する音源によるドップラー効果(2016)」

です。題材自体は基本的な問題で、設問の約半数も典型的なもので構成されています。一方で、後半の考察においては一筋縄ではいかないような工夫がなされているため、本質的な理解が試されています。単に公式を暗記するだけでなく、その導出についても、教科書などを通してきちんと理解しておきましょう。

【熱力学】

2016年度以降の7年間で、4題出題されています。出題テーマは

・「球形容器内の気体の分子運動論(2022)」

・「熱気球(2021)」

・「シリンダー内の気体の状態変化(2020)」

・「定積モル比熱と定圧モル比熱の関係(2019)」

です。

いずれも、グラフ読解のような抽象的な状況考察ではなく、具体的な状況考察が求められています。難易度としては、2019年度と2022年度は、基本的かつ典型的で平易な出題でしたが、2020年度と2021年度は、考察に要する計算力と思考力は高水準なものでした。したがって、この4題の中で比較すると、難易度の差は大きいものと言えます。ただし、どのような出題であれ、分析の基本が変わるわけではありません。

つまり、p–Vグラフで囲まれた面積が外部にした仕事を表すこと、等温・断熱・定積・定圧といった典型的な状態変化における特徴、また熱効率の定義式（e=W/Q_in）などは、教科書などを通して事前に完璧にしておきましょう。

【原子物理】

2016年度以降の7年間で、1題のみ出題されています。出題テーマは

・「X線の発生、ブラッグ反射(2017)」

です。

X線の発生では、発生するX線が連続X線と特性X線に区別されること、また加速電圧を大きくしたとき、連続X線の波長は短くなる一方で特性X線の波長は変わらないことについては、頻繁に問われるため、必ず押さえておきましょう。

【制限時間に対する問題量】

2022年度は2科目120分で大問4題を解答する必要がありました。1科目60分と考えると、大問1題あたりの時間は15分となります。したがって、長考する時間はあまり取れません。一方で、高い思考力が要求される問題が多いため、いかに平易な問題を見つけて手早く解き進められるかが勝負となります。

2022年度（最新の過去問）の分析

さらに踏み込んで、最新の入試問題を具体的に分析したいと思います。

※以下、過去問をお手元にご覧になるのが理想的ですが、過去問がなくても問題なくお読み頂けます。

【第１問】　

　階段状の面における多数の小球の連続衝突について考察する問題です。力学としての解法そのものは、摩擦のない面を移動する前後での力学的エネルギー保存則、完全非弾性衝突（一体化）における運動量保存則を立式するだけであるため、むしろ平易とさえ言えます。しかし、問2の時点で、全N段の中でのk段目とk+1段目の関係を漸化式を問いにしているなど、非常に数学的な要素の強い問題です。

　また、問3以降は、問2で求めた漸化式を用いて解き進める必要があります。その上、最終的な結論も、物理的な定性考察からは予測しづらいものとなっています。したがって、得点そのものが、数学力に大きく左右される問題となっています。

≪2022年度の目標値≫

物理を得点源にしたい受験生…7～8割

他教科を得点源にしたい受験生…4～5割

【第２問】　

　球形容器内の気体の分子運動論について考察する問題です。問1、問2は教科書的で基本的な流れに沿っているため、正答が望まれます。

　一方で、問3は気体のモル質量の単位が[g/mol]となっているため、これを[kg/mol]に変換して国際単位系(SI)に揃えてから、気体分子の平均2乗速度を計算する必要があります。気体の分子運動論においてはよくある物理量の与え方ですが、気を付けていなければ躓きやすい点であるため、注意が必要です。また、与えられた近似式をどのように用いるのかが分かりにくいため、計算に苦戦した受験生も多かったものと思われます。

≪2022年度の目標値≫

物理を得点源にしたい受験生…8～10割

他教科を得点源にしたい受験生…6～7割

【第３問】

　題材は、ダイオードとコンデンサーを含む直流回路です。今年度は、日本医科大学でも同様の回路の考察が出題されています。ダイオードは非理想的なもので、電流と電圧には関係式が与えられています。基本的な方針としては、コンデンサーの過渡現象を考えて、スイッチを切り替えた直後は直前と電荷が同じであること、十分時間が経過したときはコンデンサーから分岐点までの電流が0になることを踏まえ、回路問題としてキルヒホッフの法則を適用していけば解き進められます。基本に忠実に分析を進めれば、完答も十分可能な問題です。

　問6に関しては、E<V_mであるため、定性的に考えて電流が0となることは容易に予想されますが、解答欄に書くにあたって「見落としがないだろうか…」と不安に感じた受験生は少なくなかったかもしれません。

≪2022年度の目標値≫

物理を得点源にしたい受験生…8～10割

他教科を得点源にしたい受験生…5～6割

【第４問】

　一様電磁場中で摩擦のある水平面に沿った小球の運動を考察する問題です。単なる電磁場中の荷電粒子の運動ではなく、摩擦などそれ以外の力も考慮した上で運動を考察するので、あまり見たことのない題材として戸惑った受験生もいたと思われます。しかし、落ち着いて考えれば状況は平易であり、少なくとも問1、問2は設問も基本的であるため、正答が望まれます。

　一方で、問3は電場、磁場、動摩擦力の3力の関係から最終状態を予想するため、物理としての定性的な考察力が試されます。本問の場合、問2で求めた摩擦力から、速くなるごとに摩擦力が大きくなるため、最終的には加速度が0となり等速度運動となることが予想されます。1つ1つの設問について、これらをぶつ切りに捉えるのではなく、運動全体を考察するパズルのピースであるという認識を持つことが重要です。

≪2022年度の目標値≫

物理を得点源にしたい受験生…8～10割

他教科を得点源にしたい受験生…5～6割

【総評】

　全般的に、出題は例年通りです。難易度は標準～やや難であり、誘導を敢えて付けない構成を取って思考力を試す設問も一部で見られます（大問3問6、大問4問3など）。そのため、問題の状況を正確に分析して把握する必要があります。また、2022年度を含む多くの年度で力学が大問2題分出題されていることから、多少の知識の網羅性を犠牲にしてでも、物理としての本質的を理解、およびそれを適切に運用して分析に活かせる能力を重視していることが伺えます。時間的な余裕はほとんどないため、解きやすい問題から手を付けていくことを徹底していきましょう。

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