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具体例で実感する、等比数列の発散速度

具体例で実感する、等比数列の発散速度

 皆さんこんにちは。京都医塾数学科講師の田村がお送りいたします。

 前回の私の記事では、無限等比数列の発散について少しだけ紹介しました。「(正の無限大に)発散」とは「限りなく大きくなる」ということを表しますが、実際どれぐらい大きくなるのか、ということに疑問を持った経験はありませんか?

 今回は、皆さんのそんな疑問にお答えするために、こんな問題をご用意いたしました。

将棋盤のもっとも左上にあるマスに米粒を \(1\) つ置き、右隣のマスに米粒を \(2\) つ置く。以下、右隣のマス(無い場合は次の列に移動)に、前のマスに置いた米粒の \(2\) 倍の数の米粒を置く。将棋盤の \(81\) マスすべてに米粒を置き終わったとき、将棋盤上にあるすべての米粒の総量は全世界の米の消費量の何年分になるか。

「いやいや、これぐらいじゃ \(1\) 年分にすらならんやろ!」という声がどこかから聞こえてきそうですが、果たしてどうなるでしょうか。それでは一緒に考えてみましょう。

まずは設定を固めよう

          米一粒の重さ \(\cdots 0.02\) g
          \(1\) 年間の全世界の米の消費量 \(\cdots 5\) 億 t \(=\ 5.0\times 10^{14}\) g

という設定で考えることにしてみましょう(消費量は2020年度のデータです)。\(5\) 億 t の米が何粒かというのを計算すると、

\(5.0 \times 10^{14}\, [\mathrm g]\div0.02\, [\mathrm g/粒]=2.5\times10^{16}\, [粒]\cdots\) ①

となります。これで、\(1\) 年で消費される米は \(2\) 京 \(5000\) 兆粒であることがわかりました。

米の総量を求めよう

 将棋盤の上にある米粒の総数は、初項 \(1\) 、公比 \(2\) 、項数 \(81\) の等比数列の和として求められますね。等比数列の和の公式は

\(\displaystyle(初項)\times\frac{(公比)^{(項数)}\, \, -1\, }{(公比)-1}\)

で与えられるので、

\(\displaystyle 1 \times \frac{2^{81}-1}{2-1} = 2^{81}-1\)

と求められます。末尾の \(-1\) はあってもなくてもほとんど変わらないので、\(2^{81}\) 粒と考えてよさそうです。

 ここで、\( 2^{81} ≒ 2.4 \times 10^{24}\)\(\cdots\) ②となり、将棋盤上の米粒の総数は約 \(2\) ?(じょ) \(4000\) 垓(がい)粒であることがわかりました(時間に余裕のある方は、太字の部分を常用対数の知識を用いて求めてみてください)。

さあ、何年分になる!?

 これで準備が整いました。将棋盤上の米粒の総数②を、\(1\) 年間に消費される米粒の総数①で割ればよいので、

\(2.4\times10^{24}\, [粒]\div 2.5\times10^{16}\, [粒/年]≒100,000,000\, [年]\)

となります(あくまで概算なので切りのいい数字で出しています)。

 ということで、将棋盤上の米は全世界の米の消費量の約 \(1\) 億年分ということがわかりました。

まとめ

 いかがだったでしょうか?たった一粒から始まった米が、世界中の人たちが一生かけたとしても食べきれない量になってしまいました。これが「等比数列の発散速度のすごさ」です。実際、高校数学でよく扱う対数関数、\(n\) 次関数、指数関数(等比数列の定義域を実数に拡張したもの)で発散速度を比べると、

(対数関数) ≪ (\(n\)次関数) ≪ (指数関数)

となることが知られています。これぐらい大きくなるということを知識として知っている方は多いと思いますが、実感として持っているとさらに納得がいくのではないでしょうか。

 さらに、世の中には「指数関数よりも発散速度が速い関数」が存在します。また機会があればご紹介いたします。最後までお読みいただきありがとうございました。