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【化学の計算の要領】 ~ 立式を完全に済ませてから計算に取りかかる ~

【化学の計算の要領】 ~ 立式を完全に済ませてから計算に取りかかる ~

 京都医塾化学科の榊原です。化学を教えて長いのですが、生徒のタイプも様々。化学は嫌いでは無く、むしろ好きなのに、いつまで経っても計算問題が苦手で、そのせいでテストの成績が上がらない、といった方が毎年一定数以上います。四則演算の速さ、正確さがあるに越したことはありませんが、計算に取り掛かる前にちょっとした工夫をする習慣を身に付けてもらえれば、苦労して計算したのに答えが合わないという事態は回避できる筈。そんな工夫のいくつかを紹介したいと思います。計算問題を克服する一助になれば幸いです。今回は...

問題1.

 水H2Oは,全ての生命に欠かすことのできない物質である。湖沼は水の供給源の一つであるが、その水質汚染がしばしば問題となっている。水質汚濁の主な原因は湖沼に流入した有機化合物であり、その汚濁の程度を示す指標の一つとして化学的酸素要求量(COD)がある。これは水中に含まれる有機化合物を酸化分解するために必要な酸素量を表したもので、その値が小さいほど、きれいな水で、逆に大きいほど、水が汚染されている事になる。たとえば、ヤマメやイワナが生息する渓流水のCODは1mg/L以下であり、有機化合物などをほとんど含まないきれいな水という事ができる。実際のCODは、試料水1L中に存在する有機化合物を過マンガン酸カリウムKMnO4のような酸化剤を用いて酸化還元滴定を行い、このとき消費された酸化剤の量を、それに相当する酸素O2の質量[mg]に換算した値で示す。いま、ある湖沼水500mLを用いてCODを測定した結果、5.00×10-3 mol/LのKMnO4水溶液の消費量は12.5mLであった。この湖沼水のCODは何mg/Lか。
(注:CODをテーマに空試験(ブランクテスト)込みで詳しく実験内容を記すと、問題文がかなり長くなってしまいます。2005年東京大学、2007年北海道大学、・・・、2018年帝京大学医学部、2021年日本大学医学部A方式   等の他、2017年共通テスト試行テストでも出題されていましたから、CODについて詳しく勉強したい人は、それらの過去問を参照して下さい。ここでは計算の仕方を紹介するのが目的なので、CODについて何故この計算式になるか等、詳しい説明は割愛します。)

  という事です。もう、2題ほど例題を...

問題2.

ダニエル電池を193秒間使用した後に、その正極の質量を測ったところ、もとの質量よりも、0.127g増加していたとする。このとき、流れた平均の電流の値I [A]を有効数字2桁で計算せよ。ただし、銅の原子量は63.5、ファラデー定数は9.65×104 [C/mol]とする。

問い3.

尿素(NH2)2COを200gの水に溶かした溶媒の凝固点降下度は0.463Kであった。この尿素の水溶液を-1.20℃まで冷却したときに生じる氷は何gか。ただし、尿素の分子量は(NH2)2CO=60であるとし、モル凝固点降下をf [K・kg/mol]、質量モル濃度を[mol/kg]とするとき、凝固点降下度⊿t[K]は⊿t=kf・mで計算できる。

まとめ

計算が苦手だという方に限って、12.5×25×32..とか、193÷9.65とか、0.127÷63.5とかをいきなり、それも筆算で始めるんですよね。実際、いつも綺麗に割り切れる数字で作ってくれてあるという訳ではありませんから、約分だけで計算できる保証など全くありません。また、化学で扱う数値は測定値であり、誤差を含むものですから、有効数字等の観点からも、分数を用いるのは望ましくない(cf.「敢えて分数で計算する」)とする考え方も有りでしょう。実験で得られた数値など、むしろ綺麗に割り切れる方がおかしい。ゴテゴテの煩雑計算をやらせて数値の処理の仕方が解っているか試す。というのも入試問題の目的の一つとして成立するのかもしれませんが、果たして 思考力の有無をみる目的と両立するものなのでしょうか。次回は指数形式で答えを出す際に、数値(ファクター)部分は合うのに、桁数(オーダー)部分でいつも間違えるという方に、ちょっとした計算の工夫を紹介したいと思います。

投稿者:榊原 久芳

  • 役職
    化学科講師
  • 講師歴・勤務歴
    30年
  • 出身大学
    京都大学理学部
  • 特技・資格
    吹奏楽(中高の6年間ユーフォニアムを吹いてました)、放射線取扱主任者試験合格
  • 趣味
    映画鑑賞
  • 出身地
    静岡県
  • お勧めの本
    はじめての量子化学

受験生への一言
「個々の分子の振る舞いが現象としてどう表れるのか」が理解できれば、「気体・溶液」、「化学平衡」の単元も怖くありません。まずは理論を正しく理解する事です。正しい考え方ができるようになれば、解き方の幅も広がって、一つの方法に固執する事もなくなります。ともかく「常に頭を使え」という事です。