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ノーベル化学賞と偉人たち~メンデレーエフとモアッサン~(後編)

ノーベル化学賞と偉人たち~メンデレーエフとモアッサン~(後編)

ノーベル化学賞と偉人たち 第1回 ~メンデレーエフとモアッサン(後編)~

京都医塾化学科の神谷です。このシリーズでは, ノーベル化学賞にまつわる様々な化学史の偉人たちのよもやま話をつづっていきます。

前回のおさらい

多くの化学者が挑みながら誰も果たせず, 死傷者が続出していたフッ素の単離。自身も片目の視力を失いながらこれに成功したモアッサンはノーベル化学賞の受賞から帰ってすぐの1907年2月に54歳で急死。そして彼とノーベル賞を争ったメンデレーエフも, 同じ1907年2月に亡くなっています。享年は72歳, インフルエンザが原因でした。

メンデレーエフの最期の言葉の謎

メンデレーエフの最期の言葉は, 医師に対する“Doctor, you have science. I have faith.”というものだったそうですが, これはSFの父, ジュール・ヴェルヌ(『海底二万(マイル)』や『八十日間世界一周』が有名ですね)の作品からの引用だと言われています。調べてみると『ハテラス船長の冒険』という作品のセリフであることがわかりました。直訳すれば, 「先生, あなたは科学を持っているが, 私は信仰を持っている」となりそうですが, 科学者であるメンデレーエフの最期の言葉としては, 少し奇妙にも思えます。では, このセリフはどんな場面から取られたのでしょうか。この謎を解いて, 第1回の連載を締めくくりたいと思います。

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不屈の精神を持ったハテラス船長は北極点をめざして冒険の旅に出ますが, 極地で船員たちは反乱を起こし, 船を燃やして逃げ出してしまいます。残ったのは有能な医師のクロボニーなどわずかな仲間だけ。状況は絶望的でしたが, ハテラス船長はこう叫んで皆を鼓舞します。

「臆病者は逃げ出した!強い心を持った者が成功するんだ!ジョンソンにベル, 君たちは勇気がある。ドクター, あなたには科学の知識と技術が, そして私には強い信念がある。北極点へ向かおう!北極点へ!」

“The cowards have fled! The strong will succeed! Johnson and Bell, you are courageous. Doctor, you have science. I have faith. To the North Pole! To the North Pole!”※1

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さて, 以上の文脈を踏まえると, メンデレーエフの最期の言葉はこんな風に意訳できるのではないでしょうか。

“Doctor, you have science. I have faith.”

「ドクター, あなたは科学の知識と技術を持っているが, 私は真理へと向かう強い信念を持っている」

真理という北極点をめざして研究を続けたメンデレーエフの自負が感じられる言葉ですね。

それではまた次回!

(註)

※1  End of Part I of the Adventures of Captain Hatterasより引用, 私訳。(http://www.telelib.com/authors/V/VerneJules/prose/englishatnorthpole/englishatnorthpole032.html

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