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「ターミナルケア(終末期医療)」とは?-医学部受験生のための医療用語解説

「ターミナルケア(終末期医療)」とは?-医学部受験生のための医療用語解説

「ターミナルケアとは、どんな支援を言うの?」

医学部の受験を考えている人たちの中には、こういった疑問を持っている人は少なくないはずです。

ターミナルケアに関しては、医学部入試における小論文や面接試験で課される場合があるため、ぜひ押さえておきたい用語です。

そこで今回のコラムでは、医学部の受験対策の一環として、ターミナルケアについて詳しく解説していきましょう。

ターミナルケア(終末期医療)とは何か

まずは、ターミナルケアとはなにか、といった基礎知識について解説していきます。

こちらの項では、ターミナルケアに関する情報を幅広くまとめました。

ターミナルケアとは

ターミナルケアとは、患者の「終末期」に行われる医療行為を指します。

終末期とは、老衰や病気、障害などが進み、治療の効果を期待できなくなった時期、かつ患者の余命が残り数ヶ月程度と判断された時期のことを言います。

このターミナルケアの段階に移行した場合、延命治療は実行されず、患者の身体的苦痛や精神的苦痛を取り除く方向に支援がシフトされるのが特徴です。

ターミナルケアの対象となる人

ターミナルケアの対象となる人は、筋ジストロフィー症や認知症を患っている人がんが一定レベルまで進行している人などがあげられます。

また、老衰により寿命が残りわずかと診断された人も、ターミナルケアの対象者となる場合があります。

ターミナルケアの行われる場所

ターミナルケアは病院や介護施設、自宅など色々な場所で受けることが可能です。

病院や介護施設でケアを受ける場合は、体調の急変があった場合でも、スタッフがすぐに対応してくれるというメリットがあります。

専門のスタッフがケアをしてくれますから、家族の介護の負担が少ないという利点もあるでしょう。

また、自宅におけるターミナルケアには、常に家族と一緒にいられるというメリットがあります。

さらに、住み慣れた家で最後を迎えられるのも大きなメリットです。

反面、24時間体制での支援が必要となるため、家族への負担が大きいというデメリットもあります。

ターミナルケアの内容

ターミナルケアでは、身体面と精神面、そして社会的な面の3つの観点から、患者をサポートしていきます。

ここでは、ターミナルケアにおける患者への支援の方法を、分野ごとに分けて解説していきましょう。

身体面でのケア

ターミナルケアとはなにか、と考えた際にすぐに浮かんでくるのが、身体面のケアではないでしょうか。

食事の介助をしたり身だしなみを整えたり床ずれの防止など、介護施設でも行われているものが思い浮かぶはずです。

医療の現場では、このほかにも投薬による苦痛を除去する行為や、倦怠感を緩和するケアを実施します。

精神面でのケア

精神面におけるターミナルケアとは、いったいどのようなものなのでしょうか。

精神面での支援で代表的なものは、死を目の前に控えている患者のストレスのケアです。

不安や恐怖、遺族への心配ごとなど、余命短い患者には、様々なストレスがのしかかります。

これらをできるだけ和らげ、少しでも人間性豊かな毎日を過ごしてもらうようサポートするのが目的です。

社会的なケア

社会的なケアでは、主に医療費などの費用面に関するケアが実施されます。

ターミナルケアの患者の中には、お金にまつわる心配ごとを抱える人が少なくありません。

そういったケースでは、医療ソーシャルワーカーとの話し合いなどを通じて、費用面の不安を整理していきます。

遺産相続などの支援も行われることもありますが、この場合については、家族のほか弁護士の立会いを要する場合もあります。

緩和ケアとターミナルケアの違い


ターミナルケアとはなにか、といった基本情報に触れたところで、緩和ケアについても確認しておきましょう。

ここでは、緩和ケアの基礎知識をまとめました。

緩和ケアとは?

WHO(世界保健機構)が定める緩和ケアの定義は、「生命を脅かす疾患による問題に直面している人とご家族に対して行われる支援」とされています。

日本では、がん治療とセットで実行されるのが一般的で、がんのフェイズを選ばず初期の段階から受けることができます。

終末期に入ってから行われるターミナルケアとは、ケアの開始時期が大きく異なるのが特徴です。

つまり、ターミナルケアが終末期にともなう不安や恐怖、苦痛を和らげることに重点を置いているのに対し、緩和ケアでは段階問わず患者の苦痛を除去しようとする考え方に重点を置いている、ということになります。

なお、ターミナルケアの概念は、緩和ケアの概念の中の一部分にしか過ぎません。

病気の進行具合に関係なく支援をする緩和ケアという概念の中に、終末期医療の考え方の一つとしてターミナルケアが存在しています。

多職種間の関わりが大切

緩和ケアでは、病院や自宅などで支援を受けることができます。

そして、病院と自宅でのケアで共通して言えるのが、多職種の人間がサポートに関わると言うことです。

医師や看護師、家族のほかにも、ソーシャルワーカーや心理士、薬剤師などが支援に関係していきます。

さらに、障害を持っている人に対しては、作業療法士や言語聴覚士などもサポートにあたります。

このように、緩和ケアの現場では多職種の人間が密接に関わり、包括的なケアに臨んでいるのです。

みなさんも、医師としてこれらの人材とどのように関わっていったらより効率的なケアができるか、ということを日ごろからイメージしておくと、試験のときにきっと役立つはずです。

ターミナルケアとACP

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)が重要に

みなさんは、「アドバンス・ケア・プランニング(以下、ACP)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

ACPとは、患者の将来的なケア(治療・療養)の方針について、本人とその家族、加えて医療従事者たちが事前に話し合いの場を設けるプロセスを指します。

近年、注目を集めている考え方で、厚生労働省では有名タレントを用いたインタビュー動画や座談会動画を制作するなどして、全国的な啓蒙活動を行っています。

このACPの目的は、慢性疾患や重篤な病気にかかっている患者が、本人の価値観などを将来的なケアに盛り込めるよう支援することです。

医療従事者が半ば押し付けるようなケアをするのではなく、患者本人の考え方にもとづいて支援を実行し、人生の最終段階をより一層、充実したものにしてもらおうというわけです。

ただし、見落としてはならないポイントは、医療従事者が患者の要望だけに従っていれば、それでケアが完了するわけではないということです。

たしかに、患者が継続治療を望む場合は、その意向に沿ったサポートをすべきですし、逆であれば、そちらの意向に従うべきでしょう。

しかし、患者本人やその家族が望まなくとも、継続治療により病気などの回復が見込まれる場合は、治療の提案を積極的にする必要もあります。

この辺のさじ加減はACPの難しさの一つではありますが、医療従事者の腕の見せ所でもあります。

みなさんも将来、現場実習などに出た際は、このACPの考え方を念頭において患者と触れ合い、どういったケアをして、どういった提案をしていったらよいのか、主治医になったつもりで考えてみてください。

ターミナルケアの課題


上でも触れたとおり、ターミナルケアとは、患者の終末期における医療行為を指します。

死に直面した患者の苦痛を和らげる人権的な思想から生まれた考え方ですが、解決すべき問題も抱えています。

ここでは、ターミナルケアが抱えている課題について、2点ピックアップして解説していきましょう。

本人の意思・家族の意向の尊重

日本におけるターミナルケアの課題としてよく取り上げられるのが、本人や家族の意思・意向がどれだけ尊重されているか、という問題です。

日本の場合、本当は自宅で最期を迎えたいと思っていても、家族に迷惑をかけてしまうと気兼ねをしてしまい、病院や介護施設を選んでしまうケースが少なくありません。

一方で、欧米では個々人の意見を大切にする考え方が根付いていることと合わせて、在宅におけるケアが日本よりも充実しているため、患者が自宅で最期を迎えたいと願った際の家族の負担が軽減されています。

このように、日本では国民性や支援の充実具合が原因で、欧米ほど当事者の意思・意向がサポートに反映されていないという現状があります。

患者の終(つい)の棲家をどうするか、という問題では関係者がよく話し合い、患者本人の意思と家族の意向をよくすり合わせる必要がありますが、そのためにも、より一層の支援の充実が求められていると言えるでしょう。

経済的な問題

ターミナルケアでは、経済的な問題の解決も叫ばれています。

余命が残り僅かとは言え、その間に入院をしたり介護を受けていれば、自然と高額な料金が発生してしまうのは無理もありません。

経済的な問題が患者にのしかかると、精神的な重圧が強くなり病状を悪化させる原因となるでしょう。

そして、病状の悪化は生活の質の低下を招くため、そうなってしまっては何のための終末期医療なのかわからなくなります。

このように、経済的な問題の解消も、今後のターミナルケアで問われる大きな課題の一つと言えるのです。

医学部入試で押さえるべきポイント


ターミナルケアは、医学部入試でも小論文や面接試験で話題となることが多いテーマです。

ここでは、医学部入試において押さえておきたい、ターミナルケアの重要ポイントについて見ていきましょう。

医学部入試での出題例

まずは、実際に医学部入試で課された試験問題を取り上げていきます。

ここでは、久留米大学医学部において、2020年度の後期試験で課された小論文試験を引き合いに出しましょう。

こちらの試験では、「終末期医療の在り方について」と題した問題が出題されています。

病院間の連携や訪問診療、看取りなど包括ケアシステムに対する考え方、多職種連携に関する理解度などが問われました。

医学部入試で気を付けるポイント

ターミナルケアに関する問題を解く上では、ターミナルケアとはなにかといった基本的な知識はもちろん、目的や課題など色々な情報を整理しておく必要があります。

ターミナルケアの基礎知識や課題は上でも示しているとおりですが、小論文対策をするのなら、もう一歩踏み込んでおきたいところでしょう。

書籍や参考書、厚生労働省などの保険機関が発信している情報を通じて、知見を深めておく必要があります。

書籍については、終末期医療に携わっている医師が執筆したものが書店にたくさん売られていますので、一冊くらいは目を通しておくのがよいでしょう。

現場の医療従事者として患者とどう接したのか、そして、その過程を通じてどういうことを思ったのか、血の通った意見を追体験できます。

できれば、現場の医師から患者との触れ合い方や、観察時の要点を学びたいところですが、書籍からでも十分な情報が得られます。

どの書籍を手に取ったらよいか迷った場合は、予備校の先生などに聞くと推薦書を提示してくれるはずです。

まとめ


ターミナルケアとは、病気の進行などで手の施しようがなくなった人を対象に行われる支援を指します。

余命数ヶ月の人が主な対象となり、精神的なケアや肉体的なケア、加えて社会的なケアが受けられます。

食事の介助や投薬による痛みの緩和療法などを通じて、患者の生活の質を維持しようというわけです。

また、患者が死と向き合い、どのような最後を迎えるのかを主体的に選び取るためのサポートも積極的に行います。

しかし、この意思決定のプロセスには、患者やその家族の意思が十分に反映されていないという課題もあります。

加えて、経済的な負担が大きいことも、近い将来、解決しなければならない課題の一つです。

ターミナルケアは、医学部入試においても小論文や面接で引き合い出されやすいテーマですから、書籍などを通じて理解を深めておきましょう。