ホーム » 京都医塾公式ブログ » 京都医塾講師からのアドバイス » 確率を、もっと身近に~未完のゲームと期待値~

京都医塾公式ブログ

確率を、もっと身近に~未完のゲームと期待値~

確率を、もっと身近に~未完のゲームと期待値~

 皆さんこんにちは。京都医塾数学科講師の田村がお送りいたします。

 皆さんは「確率」はお好きですか?個人的には数学の単元の中でも特に好き嫌いが分かれる分野だと思っていて、「他の単元はできるけど確率だけは全然できない」という人もいれば「確率だけはなぜかできる」という人もよく見かけます。

 こういった認識の差は、「確率という概念に対する具体的なイメージ」が人それぞれであるというところから生まれているのではないかと私は思います(あくまで個人の意見です)。というわけで今回は、確率に登場する「ある概念」を具体化するためにこんな問題をご用意いたしました。

AさんとBさんが、先に \(3\) 勝したほうが賞金 \(3000\) 円をもらえるというルールでゲームを行うことにした。しかし、Aさんが \(2\) 勝、Bさんが \(1\) 勝したところで、ゲームを中断しなければならなくなった。この時、賞金をどのように配分するのが良いか。ただし、\(1\) 回のゲームでAさんとBさんの勝つ確率はそれぞれ等しいものとする。

 一見確率はそれほど関係ないようにも見えますが、どうなのでしょうか。いくつかの配分の例を挙げながら、実際に考えてみましょう。

その1~Aさんが総取り~

 ゲームを中断することが決まったタイミングで、Aさんが

自分のほうが勝ち数が多いのだから、途中で終わったといっても現時点で勝っているのは自分。なので、賞金はすべて自分がもらうべきだ

という主張をしました。確かにAさんのほうが勝ち数が多いため、言っていることはわからなくもないですが、さすがにやりすぎな気がしますね。Bさんもさすがに黙ってはいないでしょう。

その2~半分ずつ分ける~

 それに対し、Bさんが

勝ち数が多いとはいえ、このゲームは終了しておらず、最終的な勝者は決まっていない。なので、賞金は等しく \(1500\) 円ずつ分けるべきだ

という反論をしました。こちらも主張としては理解できますが、勝ち数の少ない側がこのように主張するのは図々しく感じてしまいますね。Bさんもこれを提案される側なら絶対に文句を言っていることでしょう。

その3~勝利数に合わせて配分~

 二人がああでもないこうでもないと議論を続ける中、見かねた主催者が

Aさんは \(2\) 勝、Bさんは \(1\) 勝しているのだから、ここは勝利数の比 \(2:1\) に合わせて、賞金も \(2:1\) で分けるのはどうだろうか

と提案をしました。確かにそこまで不公平な感じはなく、勝利数の多いAさんが少し得をするというのも、理にかなっているように思えます。一見かなり良い提案に見えますが、実際のところどうなのでしょうか。

その3の問題点

 例えば、Aさんが \(2\) 勝、Bさんが \(0\) 勝の状態でゲームを中断したとしましょう。このとき、勝利数の比は \(2:0\) となるので、賞金はAさんが総取りすることになるのですが、果たしてこれは公平な分け方になっているのでしょうか?

 もちろんこの先Aさんが \(3\) 勝する可能性が高いわけですが、Bさんがここから \(3\) 連勝して賞金を得る可能性もゼロではないはずです。それなのに、Aさんが賞金を総取りしてしまうのはいささか不公平であるように思えます。

 賞金を得る可能性がある、すなわち「確率が \(0\) ではない」のなら賞金を配分するのが公平な分け方になるのではないでしょうか?

その4~確率に着目する~

 では先ほど述べたとおり、「今後先に3勝する確率」を考えて配分することにしましょう。Bさんが先に3勝するためには、この先2連勝するしかありません。なので、Bさんが賞金を得る確率は

\(\displaystyle \frac{1}{2} \times \frac{1}{2}=\frac{1}{4}\)

となります。Aさんが勝つ確率は、Bさんが勝つ確率の余事象を考えればよいので、

\(\displaystyle 1-\frac{1}{4}=\frac{3}{4}\)

となります。「確率による分配」を考えると、(賞金総額)×(賞金を得る確率)の値を求めればよさそうですね。確率の合計値は \(1\) になるので、分配する金額は元の賞金額と等しくなるはずです。これを計算すると、

Aさん \(\displaystyle\cdots 3000\, \times\, \frac{3}{4}=2250\)

Bさん \(\displaystyle\cdots 3000\, \times\, \frac{1}{4}=750\)

となるので、Aさんに \(2250\) 円、Bさんに \(750\) 円という風に分配すればよいことになります。

 この分け方なら、先ほど例に出したAさんが \(2\) 勝、Bさんが \(0\) 勝の状態でも、分配する金額はAさんに \(2625\) 円、Bさんに \(375\) 円となり、(かなり低くはあるが)Bさんが今後勝つ可能性にもきちんと考慮した配分になっています。

まとめ

 実は、その4で考えた(賞金総額)×(賞金を得る確率)のことを、数学用語では「期待値」といいます。期待値はゲームの有利不利や、参加料の定められたゲームに参加すべきかどうかということを考えるための材料になります。

 確率を苦手としている方はたくさんいらっしゃると思いますが、このように具体的な事柄になぞらえて一つ一つの概念を理解していくと、少しずつ面白く感じられてくるかもしれません。確率に限らず色々な概念を具体化して、楽しみながら数学を勉強していきましょう。