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おこづかいを増やせるか!?~無限和を用いた小話~

おこづかいを増やせるか!?~無限和を用いた小話~

※この記事はフィクションであり、実在の人物には一切関係がありません。

 ケンシロウ君は中学 \(1\) 年生。毎日コツコツと数学の勉強をしている彼には、一つ不満がありました。それは、「おこづかいが少なくて遊びに行くお金が足りない!」ということでした。できるだけ無駄遣いをしないように努めてはいますが、ここ最近は友達の誘いを断ることも増えてきました。

 そんなある日、ケンシロウくんは「今日は \(1\) 円、明日は \(2\) 円、あさっては \(4\) 円という風に、前の日の \(2\) 倍の金額がおこづかいとしてもらえる」というルールをお母さんに提案しました。普段勉強している数学の知識を生活に活かそうとしたわけですね。

何の疑いもなくルールを受け入れたら…

 実際にこのルールでおこづかいを渡していくと、

                      \(4\) 日目 \(\cdots\)  \(8\) 円
                      \(5\) 日目 \(\cdots\) \(16\) 円
                      \(6\) 日目 \(\cdots\) \(32\) 円
                      \(7\) 日目 \(\cdots\) \(64\) 円
                      \(8\) 日目 \(\cdots\) \(128\) 円
                      \(9\) 日目 \(\cdots\) \(256\) 円
                     \(10\) 日目 \(\cdots\) \(512\) 円

となり、\(11\) 日目には \(1024\) 円 も渡すことになってしまいます。しかも今後も増え続けるばかりなので、どこかでお母さんから大目玉を食らうことになりそうですね。

 ちなみに、このまま渡し続けると \(21\) 日目には約 \(100\) 万円、\(31\) 日目には約 \(10\) 億円も渡すことになってしまいます。リッチなおこづかいですね。ケンシロウくんもこうなることを期待していたのですが…

お母さんが一枚上手でした

 ルールを提案したところ、お母さんは素直に受け入れてくれました。ケンシロウくんはしめしめと思っていましたが、お母さんは「これから渡すおこづかいを今全部渡すわね」と言って、ケンシロウくんから \(1\) 円奪ってしまいました。いったいどういうことでしょうか。実際の数式で試してみましょう。

※これから先、数学のルールに反する計算が出てきます。あくまでジョークとして読んでください。

これから先もらえるであろうおこづかいの総額を \(S\) とすると、

                  \(\ S\ =1+2+4+8+16+32+\cdots\)

と書くことができます。これを \(2\) 倍すると、

                  \(2S=  2+4+8+16+32+\cdots\)

となり、\(S\) の第 \(2\) 項以降と同じ形が出てきましたね。辺々引き算をすると、

                       \(-S=1\)
                       \( S=-1\)

となり、ケンシロウくんが今後もらえるおこづかいは「\(-1\) 円」ということになってしまいました。なのでお母さんは \(1\) 円奪っていったわけですね。

いやいや、そんなわけないやろ!

 …とまあこんなことは当然なく、\(S\) はもちろん正の無限大に発散します。実は、上記の計算には「無限和の計算をする上でやってはいけないこと」が含まれていたのです。\(S\) と \(-S\) の差をとるときに

                  \(\ S\ =1+(2+4+8+16+32+\cdots)\)
                  \(2S=  (2+4+8+16+32+\cdots)\)

という風に「無限和の一部分をかっこでくくってまとめて計算する」ということをしていますが、このような計算をしてはいけません(詳しい話は大学の数学が必要になるので割愛します)。

 かっこでくくってはいけない例をほかにも見てみましょう。たとえば、

                  \(\ S\ =1-1+1-1+1-1+\cdots\)

という無限和を、

                  \(\ S\ =(1-1)+(1-1)+(1-1)+\cdots\)

という風に考えれば、これは \(0\) に収束しそうですが、

                  \(\ S\ =1+(-1+1)+(-1+1)+(-1+1)+\cdots\)

と分割すれば \(1\) に収束しそうに見えます。このとき、「複数通りの分け方をしても、収束する値が等しい」ということが言えれば極限値が求められますが、残念ながら今回は等しくないので、この方法で極限を求めることはできません(今回の \(S\) は公比 \(-1\) の無限等比級数なので、極限は存在しません)。

まとめ

 かなりおちゃらけた内容になってしまいましたが、「無限和の計算のときにやってはいけないことがある」ということはきちんと覚えておいていただけると幸いです。おこづかいを増やせなかったケンシロウくんに思いを馳せながら、これからも楽しみつつ数学を学んでいきましょう。